カント「純粋理性批判」第2回 科学の知は、なぜ共有できるのか
・なぜ自然科学や数学は「誰もが共有できる」知識なのか?
・カントはもともと大陸合理論の立場だったが、ヒュームのイギリス経験論に多大な影響を受けた。
・ヒュームによると「Aの後にBが起こる」という認識は正しいものの、「AゆえにBが起こる」という認識は誤りの可能性がある。前者を経験し続けた結果として、後者の認識に捉われてしまったのだという。(物事の順序と因果を混同するな、ということ)
・カントはヒュームの影響を受け、「人間は主観の外に出て世界を認識することはできない」と認めた。そして、「主観には認識を作る際の共通規格があり、客観性を確保できる」という考えに至る。つまり、大陸合理論とイギリス経験論を止揚した。
・カントはその客観性を確保できる共通規格を「ア・プリオリ(先天的でどのような状況下でも成り立つの意)な総合判断」と呼んだ。
・カントによると、人間が物事を認識する時の判断は
分析判断: 主語の中にもともと含まれているものを述語に取り出した判断。確実に誰もが共有できるが、知識は増えない。例: 富士山は山である。
経験的総合判断: 実際に調べることによって新たな情報を主語に加えた判断。知識は増えるが、経験が積み重なることでデータが変わり確実性は担保されない)例: 富士山は3776mである。
ア・プリオリな総合判断: 経験せずとも誰もが共有できる判断。
ア・プリオリな総合判断の例
・二つの点を通る直線は一本しか引けない。この公理は幾何学の土台となる。
・因果律(あらゆる変化には必ず原因があり、偶然に物事が生じることはない)は誰にも共通する思考パターンで、これによって人間は自然法則を導き出してきた。そのため、自然科学は共有し得る知識になる。
(※個人的には、この因果律について疑義があって然るべきだと思う。)
・ア・プリオリな総合判断は「感性」と「悟性」の相互作用によって形成。
・「感性」は、「空間と時間」という枠組みで物事を整理して直観を作る。
・「悟性」は、「12のカテゴリー」という枠組みで物事を整理して判断を作る(カテゴリーとは物事を考える時の基本パターン)。
12のカテゴリー
量: 単一性、数多性、総体性
質: 実在性、否定性、制限性
関係: 実体と属性、原因と結果、相互作用
様相: 可能・不可能、現存在・非存在、必然性・偶然性
☆簡単なまとめ
・前節での「他人と共有できる認識」とは、「ア・プリオリな総合判断」のこと。これは経験の有無に関わらず、誰もが共有できる判断である。
・「ア・プリオリな総合判断」は、「感性」と「悟性」の相互作用によって形成される。
・「感性」は、空間と時間という枠組みの中で物事を整理する。
・「悟性」は、12のカテゴリーという枠組みの中で物事を整理する。
・「ア・プリオリな総合判断」によって、数学や自然科学に関する知識を誰もが共有できる。